猫のシニア科

猫のシニア科

シニア科

人間同様、年を重ねると様々な変化がでてきます。その変化を把握し、愛猫と飼い主様のかけがえのない時間を少しでも長く健やかに楽しむことができるようお手伝いしております。

その子の状態に合わせて適切なアドバイスを行います。また、高齢猫では関節痛がつきものです。栄養バランス、お薬、サプリメント、レーザー治療、鍼灸など様々なご提案をさせていただきます。シニアになるほど、病気にかかりやすくなります。病気の早期発見のため、定期的な健康診断の受診をお勧めしています。

負担の少ない検査・治療・手術を行いますのでお気軽にご相談ください。

人間との比較

猫は人の約4倍の早さで年をとります。私たち人間が1年に1回受ける健康診断も、人間の年齢に換算すると1年で4~8歳も年をとる猫ではそれでは不十分です。わずかな不調のサインにも早く気づいてあげるために1年に2回は健康診断を受けて健康管理をすることをおすすめします。 当院では10歳以上の老猫・高齢猫のための健康診断のプランをご用意しております。 詳しくは健康診断のご案内をご覧ください。

身体の変化

歩き方の変化

・ふらつく、ものによくぶつかる
・足を引きずる
・下半身が動かない
・段差が上がれない
・スムーズに立ち上がれない

行動・様子の変化

・ぐったりして元気がない
・落ち着きがない
・尿の量が多く、臭いがうすくなった
・痩せてきた
・便が出づらい

睡眠の変化

・なかなか眠らない
・夜鳴きをする
・昼寝の時間が長い
・夜の睡眠時間が異常に短い
・睡眠中触れても反応しない

食生活の変化

・食欲がない
・異常に食べるようになる
・水を異常に飲む
・水を飲まなくなる
・食べ物の好みが変わる

※以上のような変化や、その他、体や行動の変化が猫にみられたら、早めに獣医師にご相談ください。 病気を事前に防ぐには、体が訴える小さなサインを見落とさないことが重要です。

治療例

腫瘍

腫瘍にはゆっくり増殖して他の器官などには転移しない良性腫瘍と、一気に増殖し他の器官に転移する悪性腫瘍(ガン)があります。猫に多いのは、乳腺腫瘍、皮膚腫瘍、消化器の腫瘍などです。

主な症状
【乳腺腫瘍】 しこり・乳汁・乳腺付近の赤み、腫れ
【皮膚腫瘍】 いぼ・しこり・こぶのような隆起物
【消化器の腫瘍】嘔吐・下痢・食欲不振

治療
腫瘍を良性か悪性かを確定診断するためには手術で摘出したものを病理検査に出す必要があります。年齢や状態にもよりますが、手術が必要な場合は可能な限り当院で手術を行います。肺など難しい部位の場合は大学病院をご紹介しております。手術と合わせて抗がん剤による治療を実施することもありますが、猫では抗がん剤を使用することはあまり多くありません。

放射線療法が必要な場合は大学病院をご紹介いたします。ただし年齢や状態によって、そういった積極的治療を望まれない飼い主様もいらっしゃいます。当院では飼い主様のご希望に沿えるように、手術や抗がん剤を行わない場合でも、なるべくよい時間を過ごせるように飼い主様と一緒に考えていきます。

肥大型心筋症

心臓の筋肉が肥大して心臓の中が狭くなり、頻脈や血栓塞栓症を起こす病気です。 血栓塞栓症を起こすと命にかかわります。 原因としては甲状腺機能亢進症や遺伝病が考えられます。 主に高齢のねこちゃんにみられますが、遺伝的にメインクーンやアメリカンショートヘアー の一部の系統に出やすいことが知られています。

主な症状
頻脈・血栓塞栓症 血栓塞栓症を起こすと強い痛みと循環不全から開口呼吸、下半身麻痺などを起こし、 死に至ることがあります。

治療
ACE阻害薬などの心臓の薬が治療に用いられますが、効果のほどははっきりしていません。ほとんどの死因が血栓塞栓症なので、血栓を予防するために抗血栓薬を投与することはいいかもしれません。

腎不全

腎臓の機能障害により体内の老廃物の排泄や水分・電解質バランスの調節などに異常が生じます。10歳以上の猫に多くみられます。まれに先天的な奇形などにより若くても腎不全を発症することがあります。

主な症状
【急性腎不全】急激な尿量の減少・尿閉・食欲不振・嘔吐 【慢性腎不全】多飲多尿・食欲不振・体重減少

治療
腎臓は一度壊れてしまうと再生しない臓器の一つです。急性腎不全では回復することがありますが、慢性に移行すると治りません。人間では腎移植や透析を行いますが、動物では難しいです。そのため慢性腎不全になった場合は対症療法が主体になります。具体的には、腎臓用の療法食(低たんぱく食)、活性炭・リン吸着剤の投与、腎臓の血圧を調整する薬、そして輸液です。輸液に関して静脈点滴は長期間行うことが難しいため、当院では皮下輸液を行っております。

腎不全では主に血液中の尿素(BUN)が上昇することで食欲不振を起こすことが問題なので、食欲が落ちたときや脱水がひどいときに輸液を行って水分を増やしてあげると一時的に調子が回復することが多いです。ただしあくまでも対症療法で効果はあまり長くないので、症状に合わせて繰り返し輸液を行う必要があります。

甲状腺機能亢進症

甲状腺の働きの異常により、甲状腺ホルモンが多量に分泌される病気です。高齢のねこちゃんに多く見られます。

主な症状
飲水量の増加・多尿・下痢・息切れ・微熱・不整脈・行動の活発化・肝不全、肥大型心筋症

治療
甲状腺は体の代謝を促すホルモンなので、過剰に分泌されると全身が活発になってしまい、から元気が出る、イライラして神経過敏になるなどの症状があります。心臓や肝臓が働き過ぎてしまうために負担がかかり、悪くなってしまうことがあります。 治療は二つあり、一つの治療は抗甲状腺薬を飲ませます。もう一つの治療はヒルズサイエンスダイエットのy/dという治療食を与える方法です。この方法は副作用がありませんが、厳密に食事をy/dと水だけにして、他の物を一切口にしないようにしなければ効果が出ません。

認知症

ねこちゃんにはあまりみられませんが、18歳をこえた猫にはときどきみられます。

主な症状
症状は人間の認知症と似ており、物忘れや徘徊、夜鳴き、昼夜逆転などがみられます。

治療
症状は人間の認知症と似ており、物忘れや徘徊、夜鳴き、昼夜逆転などがみられます。 治療 残念ながら特効薬はありません。しかし、EPAやDHAなどの脂肪酸(魚油に多く含まれる)のサプリメントをしばらく与えると改善することがあります。 アンチノールというサプリメントがおすすめです。

健康診断

10歳以上になるとさまざまな体の変化と同時に病気のリスクも高まります。そのため、それまでの健康診断の内容ではカバーしきれず、見落として未然に防ぐことが出来ない場合があります。当院では年齢にあった健康診断をおすすめしています。様々な血液検査やキャットドック(レントゲン検査、腹部超音波検査)を実施しております。猫は夏と冬にお得な健康診断キャンペーンをご用意していますので、そちらもご活用ください。

老猫・高齢猫のQ&A

Q
食欲不振がみられるときはどうしたらいいですか。
A
老猫・高齢猫の食欲不振はよくみられる症状です。若いころに比べると食べる量が減り、胃腸の機能も弱ってきます。高たんぱくな食事は腎臓の負担に、高塩分の食事は心臓の負担になります。食べないからといってむやみにおいしいものを与えると、キャットフードを食べなくなってしまいます。なるべく信頼のおけるメーカーのドライフードを中心に、消化のいいものを食べさせましょう。

缶詰はドライフードに混ぜて補助的に使うといいでしょう。残す場合は与えている量が適切か病院で計算してもらいましょう。腎不全の場合は水分をしっかり摂った方がいいです。心不全、肝不全、腎不全、糖尿病などの疾患がある場合は療法食を食べさせた方がいいので、病院に相談しましょう。1日以上食べない場合は病気の可能性があるのであまり長く様子をみず、診察を受けましょう。

Q
老猫・高齢猫にお勧めのキャットフードは?
A
猫は腎不全になる確率が高いため、老猫・高齢猫向けのフードはタンパク質量が減らしてあります。ただし猫は犬や人間と違って完全な肉食動物なので、老猫・高齢猫向けであってもそれなりにタンパク質は入っています。療法食を作っているメーカーは栄養学的なデータと実績を豊富に持っているので信頼ができます。日本で療法食を販売しているメーカーは、ヒルズ、ロイヤルカナン、アイムスなどです。療法食を作っているメーカーが販売している老猫・高齢猫向けのフードが無難な選択です。

病気がある場合は症状に合わせた療法食が必要になります。特に腎臓病になった場合はタンパク質の量を調整しなければなりませんので、腎臓用の治療食がおすすめです。腎不全が進んでしまうと食欲が落ちますので、それまでに治療食に切り替えられるといいです。食べなくなってしまった場合は必ずしも治療食にこだわる必要はなく、食欲を優先しましょう。

Q
老猫・高齢猫にお勧めのサプリメントは?
A
アンチノールというサプリメントがお勧めです。
モエギイガイという貝から採れた脂肪酸のサプリメントで、皮膚や血管、関節にいいとうたわれています。サプリメントである以上はっきりとした効能はありませんが、個人的な感触としては関節痛や皮膚炎をやわらげるのではないかと思います。認知症にもいいかもしれません。。

Q
爪切りの頻度は?
A
高齢になると、爪とぎの頻度が減ってきます。自分で手入れしないのを放っておくと巻き爪になり、肉球に刺さってしまいます。若い時には起こりにくいため、飼い主さんが気づかないうちにたくさん刺さっていることもあります。1~2ヶ月に1回は爪を切ってあげましょう。お家で難しい場合は病院に連れてきてください。

Q
被毛の毛玉はどうしたらいい?
A
若いうちは自分で舐めて毛づくろいをする猫ちゃんがほとんどですが、高齢になると毛づくろいの頻度が減り、毛玉ができてしまうことがあります。歯周病があると口が痛くて毛づくろいができない子もいます。こまめにブラッシングをしてあげることで毛玉は予防できますが、できてしまった場合は毛玉を少しずつ崩して櫛を入れて取るか、毛玉ごと毛を切ってしまいます。おうちでハサミで切る場合は注意が必要です。猫の皮膚は想像以上に伸びるので、毛と一緒に皮膚を切ってしまう事故は多いです。難しい場合は無理をせず病院に連れてきてください。

Q
便が毎日出ないけど大丈夫ですか?
A
年を取ってくると食べる量が減ったり、脱水気味になって便秘になることがよくあります。例えば毎日便が出なくても2日に1回など定期的に出ていれば大丈夫ですが、長くたまればたまるほど便が固く大きくなっていきますので、明らかに出が悪い場合は対処する必要があります。フードに可溶性の食物繊維を加える、水分を増やす、下剤を与えるなどが考えられます。あまり便が大きくなってしまった場合は浣腸や用手法で便を摘出します。便秘は腎不全や巨大結腸症などの病気で起こることが多いので、原因を調べることも大切です。

Q
しこりができたけど大丈夫ですか?
A
しこりには良性のものと悪性のものがあるので大丈夫かどうかは見ただけではわかりません。一般的に悪いものは成長スピードが早く、良性のものはあまり大きくなりません。心配な場合は病院で針を刺して細胞を診る検査があります。ただし確定するには手術で取ったものを病理検査する必要があります。猫ちゃんの乳腺にしこりができた場合は悪性のことが多いのであまり様子を見ず早めに病院に連れて行きましょう。

Q
キャットタワーを使っても大丈夫ですか?
A
高齢になってくると猫でも関節や背骨の柔軟性が失われたり、関節炎があったり、筋肉が落ちてくることがあります。高齢でも元気で敏捷性があればキャットタワーを使用しても大丈夫ですが、衰えが見られたらあまり高いところには登れないようにした方が無難かもしれません。関節が弱っている状態で高いところから落ちると怪我をする可能性があります。

Q
階段の昇り降りはしても大丈夫ですか?
A
高齢でもある程度動ける場合は階段くらいの段差は平気なことが多いです。自宅で飼っていたオリーブという猫は、18歳の時に腎不全で失明しましたが、それでも亡くなる直前まで階段の昇り降りをしていました。ただしふらつくくらい足腰が弱っているときは段差はつらいものです。落ちると危ない場合は柵などで階段に行けないようにしたほうがいいでしょう。同じ理由で、足腰がかなり弱っている場合はトイレの枠の高さも低くしましょう。

Q
介護はどうしたらいいですか?オムツの使用は?
A
かなり高齢になったり、病気で弱ってしまったときに介護が必要になる場合があります。もし寝たきりになってしまった場合はやわらかいところで寝かせて2~3時間おきに体の向きを変える必要があります。ずっと同じ方を下にしていると体の出っ張っている部分が褥瘡になって皮膚に穴が開いてしまいます。

介護をしていても長くなると褥瘡ができることがあります。その場合は薬で化膿を抑えながら塗り薬とガーゼで保湿する必要があります。褥瘡を予防するには皮膚の血行が悪くならないようにマッサージをしたり、体圧が分散するようにクッションなどを工夫するとよいです。

排泄の管理も大切です。漏れてしまう場合はペットシーツの上で寝かせたり、オムツを使用します。オムツはペット用のものを利用してもよいですし、コストを抑えたい場合は人間用のオムツにしっぽの穴を開けて使う方法があります。穴を開けたときは中の吸収ゲルが漏れないようにガムテープなどで補強します。オムツを長時間使うと皮膚が蒸れてかぶれたり擦り傷ができることがあります。その場合、使う時間と外す時間を作った方がいいです。

自力で排泄できない場合は数時間おきに圧迫して排泄させる必要があります。尿は毎日出さなければいけません。便は毎日出なくても大丈夫です。詳しくは病院にご相談ください。

Q
高齢猫でも保険に入れますか?
A
以前は13歳くらいまで入れるところが多かったですが、ここのところ動物の保険は条件が厳しくなっています。大手のアニコム、アクサなどは8歳までに加入すれば、終身で入れるようですが、8歳以上では加入できなくなってしまいました。まだ入れる保険会社もあるようですが、加入条件は変わってしまうことが多いので、その都度調べて、必要があれば早めに加入した方がいいと思います。

Q
けいれんすることがあります。大丈夫ですか?
A
けいれんにもふるえ程度の弱いものといわゆるてんかん発作のように強いものがあります。例えば筋肉が低下すると支える力が弱くなり、立ち上がった時にプルプルとふるえることがありますがこれは仕方ありません。また寝ているときにぴくぴくする程度のものは心配ないことが多いです。てんかんのように強いけいれんが起こる場合は治療が必要になります。

原因は脳腫瘍や脳の萎縮などの脳の異常、肝不全、腎不全、低血糖などの内臓・血液の異常が考えられます。脳の異常を検査するにはMRIを撮影する必要がありますが、麻酔が必要になることが多く、診断がついても治療が難しいことが多いのであまりおすすめしていません。

治療はけいれんを抑える抗てんかん薬を飲ませるなど対症療法を行います。内臓・血液の異常でけいれんが出る場合は血液検査で診断がつきます。この場合もそれぞれの異常に対して治療を行うことになります。いずれにしても強いけいれんが見られた場合は早めに受診しましょう。

Q
腎不全の新しい薬とはどんな薬ですか?
A
2017年の4月にラプロスという猫用の腎不全の薬が発売されました。人間用としては以前からある薬ですが、猫の腎不全に効果があることがわかり、認可が取れて発売になった薬です。残念ながら腎不全を治すことはできませんが、腎臓の組織の血流を保ち腎不全の進行を遅らせます。

また腸管の血流も改善し、食欲を改善する可能性があります。投与方法は錠剤を1日2回1錠ずつ食事と一緒か食後に飲ませます。錠剤なので猫の場合おうちで毎日飲ませられるかどうかが問題になりますが、その効果と副作用の少なさを考えるととてもいい薬だと思います。当院でも何頭かの猫ちゃんに処方していますが、飲ませられる子と飲ませられない子は半々くらいです。

Q
夜鳴きや徘徊をしたり、大きな声で鳴くようになったのはどうしてですか?
A
高齢でそのような症状が見られた場合、認知症が考えられますが、耳が聞こえない、目が見えないためにそのような行動をしていることもあります。今まで出来ていたことが出来なくなるとストレスがたまりイライラします。

そのような場合、抑肝散などの漢方薬でイライラは改善する可能性があります。またDHAやEPAなどの脂肪酸を含むサプリメントも効果があるかもしれません。目が見えない場合にはそれに対して介助をしてあげる必要があります。目が見えなくても位置を覚えていれば移動できます。なのでトイレや食器、寝床などの位置は変えない方がいいでしょう。また途中に物を置かないようにしましょう。

Q
口臭や口の痛みはどうしたらいいですか?
A
歯周病や歯肉炎がある場合、麻酔がかけられれば歯石除去と悪い歯の抜歯をすると口臭や口の痛みは改善します。あまりにも高齢だったり内臓が悪くて麻酔がかけられない場合の処置は難しいですが、口臭を抑えて口内環境を改善するサプリメントを与えるなどが考えられます。腎不全があると口臭が悪化するので、気になる場合は血液検査を受けましょう。